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二胡奏者、教師 元大連民族楽団団長 王 発邦さん

二胡奏者、教師 元大連民族楽団団長 王 発邦さん

二胡の響きを世界へ伝えたい

 来年で国交正常化40周年を迎える日本と中国。この間、両国は親密な関係を築いてきたが、潤滑油となってきたのが音楽だろう。とりわけ中国伝統の楽器である二胡は日本人の愛好者も多く、相互理解のツールにもなっている。この二胡奏者の王発邦さんは指導者としても活動し、高度な演奏技術と温和な人柄は日本人の生徒たちにも慕われている。中日友好の節目を迎える来年を前に、王さんの音楽を通した民間交流への思いを聞いた。

――王先生、お久しぶりです。先生に二胡を教えていただいたのは大連鉄道学院(現在の大連交通大学)に留学していた10年前。わずか半年間でしたが、私にとって素晴らしい体験でした。恩師の王先生にお話をうかがうことができ、とても光栄です。

 「本当に久しぶりですね。あなたの真面目な学習ぶりはいまでも覚えています。ところで、二胡は上手になりましたか?」

――恥ずかしながらまったく上達はしていません。
不肖の弟子です。今回、王先生に登場していただいたのは、来年の中日国交正常化40周年を前に、二胡がつなぐ中日友好についてお話をうかがいたかったのです。来年は記念イベントとして音楽コンサートなども開かれることでしょうね。

 「両国の国交正常化は両国民にとっても大変喜ばしいことであり、これまでの40年間は各分野での交流が活発に行われてきました。その中でも音楽という文化が少なからずも中日友好に貢献できたと思っています。これからもそうであることを願っています。来年は両国政府によって多彩な記念行事が開かれることでしょう。まだ具体的な話はありませんが、音楽コンサートが開催されるのならば、私もぜひ参加して友好のメロディーを奏でたいと思っています」

――最近の音楽活動の中で、日本との関係はいかがでしょうか。

 「1998年から語学留学生に二胡の指導を続けています。いまでは日本や韓国、フランス、タイ、ロシア人など国籍は幅広く、その数は300人以上になります。日本の生徒さんは半数以上を占めていますので、日本との関係は深まるばかりです。最近では大連交通大学留学生らが結成した『大連交通大学友の会』のイベントに呼んでいただき、『北国の春』や『四季の歌』など日本の曲も披露しました。中国民族楽器の二胡にぴったりのメロディーで、中日友好にふさわしい雰囲気となりました」

――日本人の二胡愛好者はとても多いのですが、日本の生徒さんにどのような印象をお持ちでしょうか。

 「日本のみなさんは時間を守りますし、とても礼儀正しく真面目です。課題曲もきちんと練習してきますし、学習態度はとにかく熱心。信頼関係も芽生え、私がかつて教えた日本の留学生たちとはいまだに深い交流があるんですよ」

――王先生は何度も日本へ演奏旅行に出かけていますね。これまで訪れた感想をお聞かせください。

 「数年前までは毎年のように訪日し、通算で10回ほどになるでしょうか。北海道や仙台、東京、静岡、福岡、長崎など、北から南まで数多くの都市を訪れました。どこへ行っても歓迎され、中国の伝統楽器に対する関心が高いことに驚かされました。その上、演奏中は真剣に耳を傾けてくれ、日本のみなさんの深い友好とマナーの良さが強く印象に残っています」

――日本の音楽団体などとの交流はあるのでしょうか。

 「以前、福岡で開催されたアジア文化祭に参加したことがあり、これが縁となって福岡の音楽団体と今でも良い関係が続いています。こうした国際交流を通して中国の伝統音楽を見直す機運が盛り上がり、2005年には大連京劇団や大連雑技団、大連市文化局などが中心となって大連民族楽団を発足させました。私はこの民族楽団の団長を務めましたし、いまもメンバーの一員として中日文化交流にかかわっています」

――二胡奏者として日本の伝統音楽についてどのようにお考えでしょうか。
 「以前、日本人留学生から尺八奏者で作曲家でもある宮田耕八朗さんのCDをいただきました。尺八はもともと中国の楽器でしたが、現在の中国にはほとんど残っていません。日本で独自の文化を作りあげてきたのです。彼の作曲、尺八演奏は素晴らしく、いつかは一緒に演奏したいと思い続けています」

――最後に音楽分野での王先生の希望や目標をお聞かせください。

 「中国の子供たちにも二胡を教えていますが、伝統楽器の演奏は情緒教育に良いことであり、自国文化を意識することは、大人になって海外で活躍する時にも役立ちます。そんな子供たちの成長が楽しみです。私も長い経験を生かし、二胡の素晴らしさを世界中の人に聴いてもらいたいと思います」

【Profile】
王 発邦さん

 1943年旅順生まれ。二胡教師だった父親の影響で7歳から二胡、板胡を始める。18歳で文芸軍隊に合格したのち北京で板胡をマスターし、中国音楽学院で作曲を学ぶ。のちに演奏家、作曲家、指揮者、指導者として幅広く活躍している。

【インタビューを終えて】
温和な性格と強い情熱

 王先生に二胡の指導を受けた半年間は、私にとってかけがえのない時間でした。毎週1回の練習でしたが、自分が習うよりも、先生が奏でる二胡の音を聴かせていただくのが楽しみでした。音色は弾いている人の性格が出るのかもしれません。初心者の私でしたが、怒ったりイライラしたりした表情を一度も見たことがありませんでした。
 久しぶりにお会いした先生は当時と変わりなく、快く私たちのインタビューを受けてくださいました。笑顔を浮かべながら、中国伝統音楽を担う子供たちの育成と、世界に向けて発信していきたいと熱く語る王先生。この強い情熱がいつまでも若々しい理由だと納得しました。
(猪瀬 和恵)

この投稿は 2011年12月12日 月曜日 8:09 PM に Whenever誌面コンテンツ, 巻頭インタビュー カテゴリーに公開されました。

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掲載日: 2011-12-12
更新日: 2012-02-24
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